来 歴

虫のいい願い


売り買いはいつも
さわやかな朝を立会人に行われ
賭けごとはたいてい
夜に近いあなぐらで輪になつて開かれる
だから明るい光が
途方もなく大きな金貨にみえるからといつて
無垢の太陽を賭けるわけには行かない
しかもなお
太陽とひき換えに
勲章のような花束を欲したのは
罪深い望みにちがいなかつたのだ

にせの太陽は
私たちの劇の高い空に描かれた
それは舞台の袖からも
ちよつと身をよじれば
観客席のいちばんはずれからもよく見えた
空をふり仰ぐとき
ひどくぎこちなくて
恋人の役はどれも失敗した
「おお私の太陽よ」というとき
老女のように声がかすれた
次の幕では恋を失つた
「どうして」と問いかけるが
書き割りの見えすいた町からは
誰も答えない
私はむなしくみえをきる
すると名声がいそいで剥げて行き
舞台のはしにずり落ちた太陽も
ひとしお暗くかげつた
拍手のわかない幕切れが続いた
手ごたえのない賭ごとに破れ
埋葬されたにせの太陽
実は私の今日
願わくは劇の中の敗北であれ
そして暫時休憩

静かに眠るのはいいことだ
悪い夢はおことわりする
理由もなく涙にあふれてめざめる次の朝
誰も呼びかえしたわけではないのに
新しい恋人のふりをして
うす紅の
ういういしい太陽が帰つているといいのだが

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